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ベルリン便り

2008年4月
水中ラグビー
文:池永 記代美
1990年よりベルリン在住。甲子園球場に立つのが夢だったが、当時、野球部の門戸は女性に開かれておらずソフトボール部に入部。ボールを見ると追いかけたくなる習性に導かれて水中ラグビーを始めた。日本のTV局ベルリン支局勤務。

  シュノーケルの先が水面から頭を出したかと思うと、次の瞬間選手は身体をくねらせて水中に消えていく…。プールサイドで見ているだけでは、いったい中で何が起きているのかさっぱりわからない。それが「水中ラグビー」という摩訶不思議なスポーツだ。

  装備はシュノーケル、水中めがねとフィン。青・白のチームの識別は水球用キャップと水着の色で行う。1チームは11人構成でそのうち6名がプレイし、残り5名はベンチで待機。息切れした選手と随時交代するのだ。競技の場は深さ3・5m〜5mのプール(幅と長さはいろいろ)で、塩水を詰めた直径約16cmの円形ボールを奪い合いながら試合は進行し、プールの底に置かれた相手ゴールにボールを入れれば得点が入る。競技時間は15分ハーフ。選手はボールを持ち、泳ぎ、パスする(前方に投げても可)ことができ、ボールを持っている選手に対しては手や足を使って攻撃してかまわない。

ラグビーや水球に似ていると思われるだろうが、決定的な違いは、すべてのプレイが水中で行われること。息を止めた潜水状態で選手は競技を行うのだ。

流線型の身体でスイスイ泳ぐイルカになりたい、いや、贅沢はいわない、亀でもいい、見かけは不格好でも長時間潜っていられる―。そんなことを考えながら私は水に潜る。運良くパスを受け取ったらとりあえずボールを抱えて前進。さて、誰にパスを渡そうか?と一瞬でも躊躇すると、すぐさま力づくでボールを敵に奪われそうになる。援護にきた味方の選手と敵の選手が団子状態になり、その真ん中で、そろそろ息苦しくなった私は助けてくれ〜と言いたいがシュノーケルをくわえて水の中にいれば声も出せない。ボールをなんとか放り出し、それに気づかずまだ手足に絡んだり引っ張ったりしている人たちを振りほどき、やっと浮上する。

プールの底を這うようにして泳げ! これが水中ラグビーの鉄則だ。水の中は三次元の世界。敵は左右だけでなく上下からも襲ってくるのだ。底を泳げば少なくとも下から攻撃される恐れはない。浮上と潜水のタイミングを上手にはかること。これも水中ラグビーならではのテクニック。パスをもらえないなら水中に長居をしても意味はない。さっさと浮上し次なるポジションに移り、空気満タン状態で再び潜るべし。

ありがたいことに衝突しても水の中なので衝撃はそれほど大きくない。突き指や青アザができる程度で、ケガは比較的少ない。身体の大きさや力で劣っていても技でなんとか対抗できるのも水中だからだろう。日頃の試合は男女混合で行っているし、一部リーグで男性に混ざって活躍する女性もいる。女性といっても身長180cmという人もざらで、私はとても太刀打ちできない。唯一対抗できるのは息止めの長さで、「さすが海女の国から来た」と褒められれば悪い気はしない。

水中ラグビーの発祥の地は、ここドイツ。1960年代には公式試合が行われており、現在50を越すチームがある。なぜか北欧と中米に普及し今や国際大会が開かれるまでになっている。退屈なダイビングのトレーニングがいやでこの道に入る人が多いのだが、私も例外ではない。

大学のスポーツプログラムでダイビングの資格を取り、その延長で水中ラグビーのコースに通い続けてはや13年。今の練習仲間はほとんど社会人だが、残業のないドイツ社会、夕方7時、8時に始まる練習に仕事が理由で遅れて来る人はほとんどいない。魚になった気分で縦横無尽に泳ぎ回る1時間。地上世界の煩悩を忘れられる時間でもある。もちろん練習の後はビールを一杯。これで今夜もぐっすり眠れる。



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